「世界農業遺産 阿蘇」認定10周年を迎えて
阿蘇地域の草原は、1000年以上前から野焼きや放牧などの農業により維持されてきました。
草原とともに歩んできた阿蘇は、多様な農業や希少な動植物、伝統的な農耕文化などに恵まれており、これらが世界的に価値あるものとして2013年5月に世界農業遺産に認定され、今年で10周年を迎えます。
東海大学エコツーリズム研究会では、地域の宝である資源を保全しながら活用するしくみ「エコツーリズム」を学ぶ研究活動を行っています。
世界農業遺産認定10周年を迎え、エコツーリズム研究会の学生たちが、阿蘇地域の宝である農業や文化、歴史をより深く知るべく、阿蘇の農業を支える当事者の皆さんを訪ねました。
今回は、伝統の製法で阿蘇たかな漬を作る菊池食品の3代目社長であり、阿蘇市観光協会長でもある菊池秀一さんに阿蘇の高菜農家の現状と「世界農業遺産 阿蘇」をどのように観光に活かしていくかについて、お話を伺いました。
【農業の現場を見学】
はじめに、菊池さんが普段高菜を栽培している畑に連れて行っていただきました。目の前には阿蘇の山々が見えて、のどかな風景が広がっていました。そんな素敵な場所で阿蘇の高菜は栽培されています。
取材に伺った9月は、高菜ではなく唐辛子を栽培していました。この唐辛子は、高菜を漬けるときに使用するもので、菊池さんは10年近く高菜と唐辛子の栽培を続けているそうです。畑は、1年中無駄なく活用されているのですね!
この写真は、以前撮影された高菜の畑です。今回は時期が違い、実際に高菜を見ることができませんでした。私は、漬けてあるものしか見たことがありませんでしたが、これが漬ける前の高菜なんですね!
【阿蘇の農業や観光について聞いてみた】
―――阿蘇は2013年に世界農業遺産に登録されましたが、阿蘇の農業の何が評価されて登録されたのですか?
菊池秀一さん:人の手を使って野焼きを行い、草原を維持管理してきたこと。そしてその草原を利用する牛・馬がいるから阿蘇の農業は特別なのです。
阿蘇の農業では、牛・馬の排出物や草原の植物を堆肥にしながら、米や野菜を育てています。この畜産・草原・農業の循環が評価されました。他のところは畜産がないので、牛・馬の堆肥を使うことができませんよね。阿蘇特有の循環型の農業をもっとPRできるはずだと思っています。
私は阿蘇の農業がこのように循環していることを初めて知りました。阿蘇で牛や馬を見ることはあっても阿蘇っぽいな、かわいいなと感じるだけでした。阿蘇の農業に貢献していると考えると動物を見る目が変わりますね!
阿蘇の農業の循環についてお話を伺えたところで、次に高菜の農業についてお話を聞くことにしました。以前、阿蘇の高菜についてインターネットで調べた際、農薬を使用せずに栽培しているという情報を得ていました。
―――農業をするうえで農薬を使用するという農家さんもいらっしゃると思うのですが、なぜ阿蘇の高菜は農薬を使用せずに栽培することができるのですか?
菊池さん:高菜は冬を越します。冬は害虫がいる時期ではないので、農薬を使う必要がありません。しかし、近年は異常気象で、気温が少し高いです。それに加え、1月や2月頃にまとまった雨が降り続けることもあります。それらの影響によって、ハクサイダニという青物につく虫が出てきています。
ハクサイダニから作物を守るには農薬が必要となりますが、今はまだ農薬の認可が下りていないので使うことができません。承認されるのには2、3年かかります。現在、熊本県と一緒に頑張っています。
私はここまでの菊池さんのお話を伺って、「農薬を使用していない」という長所がなくなってしまうのではないかと思いました。
―――今後は、農薬を使わず高菜を作ることはやはり難しいのでしょうか?
菊池さん:農薬を使用せずに農業をしている方々が声をかけてくださって、乳酸菌で土壌改良する方法や電解水を入れると効果があると教えていただきました。これから、いろんなところで試してみようと考えています。
私は、害虫が発生してしまったら農薬を使うしか方法がないと思っていましたが、このような方法があるなんて初めて知りました。もし成功すれば、今後も農薬を使わず高菜を栽培することが可能になりますね!
―――最近は農業人口の減少や高齢化が問題になっていると思いますが、高菜農家も減少してきているのでしょうか?
菊池さん:やはり、周りの高菜農家の方々も「もう、作れんばい」と言って卒業される方もいらっしゃいます。なので、最近高菜栽培はピンチだという広告を出しました。座って、腰をかがめて収穫することが難しいのです。
汚れて作業することに若者や農業をしない人は慣れていないので、なかなか難しいですね。高菜を植えるのは簡単なのですが、収穫が大変なのです。
―――高菜の収穫を観光と絡めて体験プログラムにするのはどうですか?
菊池さん:それも良い方法だと思います。阿蘇の農業のPRにもなりますね。どれだけ大変かを知ってもらうことで、価値を知ってもらうことができ、人材の確保もできます。
もう1つ考えていることがあって、それは高校生や大学生に部活やサークルの活動費を稼ぐために高菜の収穫をしてもらうことです。私たちは収穫を手伝ってもらえるので、お互いWin-Winな関係じゃないですか?
すごくいいアイデアだと思いました。もしかしたら、高菜の収穫体験から農業に興味を持つ若手が現れる可能性がありますね。何より人材確保にもなりますし、農業に触れる良い機会になります。
おわりに
今回、菊池さんから阿蘇の農業について伺って、阿蘇の農業は牛・馬・草原があることで成り立っていることがよくわかりました。この取材をする前は、阿蘇の草原に牛や馬がいる景色を見て楽しむことで終わりでした。しかし、牛や馬、草原は阿蘇の農業と深いつながりがあって、循環していることを学び、取材前に比べ阿蘇の価値を再認識しました。
また、農業従事者の高齢化や担い手不足は大きな課題であり、今後も深刻化するのではないかと取材を通して感じました。この問題を解消するために、農業と観光を絡めた体験型プログラムを作ってはどうかと考えました。さまざまな人が農業の体験を通して、大変さややりがいを感じることができるのではないでしょうか。
農業を学び、体験すると阿蘇で食べる物がよりおいしく感じたり、牛も馬も草原も全てが価値あるものに見えてくるはずです!
菊池食品についてご紹介
最後に菊池食品の高菜を紹介しようと思います!高菜飯は阿蘇の飲食店で食べることができます。おすすめはやはり高菜飯です。
私は、高菜めしを小学校の給食で初めて食べたときは、おいしくて驚いたことを覚えています。「なぜ、こんなにおいしいものを食わず嫌いしていたのだろう!」と後悔しました。
熊本の郷土料理である高菜めしをもっと多くの若い世代に食べてほしいなと強く思います。
菊池食品では、様々な種類のたかな漬を販売しています!高菜は機械を使わず、すべて手折りで収穫をしています。それがおいしい食感を生み出す秘訣だそうです。
ぜひ菊池食品のたかな漬を食べてみてください!
菊池食品の詳細はこちら
http://kikuchishokuhin.co.jp
東海大学エコツーリズム研究会 2年
村上世夏 記