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【世界農業遺産 阿蘇】なぜ南阿蘇村で絶品のアスパラガスを作れたのか?農家の藤原美里さんにインタビュー

「世界農業遺産 阿蘇」認定10周年を迎えて

阿蘇地域の草原は、1000年以上前から野焼きや放牧などの農業により維持されてきました。
草原とともに歩んできた阿蘇は、多様な農業や希少な動植物、伝統的な農耕文化などに恵まれており、これらが世界的に価値あるものとして2013年5月に世界農業遺産に認定され、今年で10周年を迎えます。

(東海大学エコツーリズム研究会 取材時撮影)

東海大学エコツーリズム研究会では、地域の宝である資源を保全しながら活用するしくみ「エコツーリズム」を学ぶ研究活動を行っています。

世界農業遺産認定10周年を迎え、エコツーリズム研究会の学生たちが、阿蘇地域の宝である農業や文化、歴史をより深く知るべく、阿蘇の農業を支える当事者の皆さんを訪ねインタビューを行いました。

【南阿蘇村の絶品アスパラガスを作る農家さんに聞く】

突然ですが、野菜を買うときにどこの農家さんなのか、どこで作られているのか、と考えたことはありますか?正直私は、ありません。。。

今回、私たちは、南阿蘇村でアスパラガスを作っている藤原美里さんに取材を行いました。
普段は聞けない貴重なお話を伺い、さまざまな学びにつながりました。知れば知るほど興味が湧いてアスパラガスの魅力にはまってしまう、藤原さんのお話をご紹介します。

(インタビューの様子 左が藤原美里さん)

藤原美里さんは、結婚してから農家を始められて今年で18年になるそうです。藤原家のアスパラガスに込められた思いについてお話を伺いました。

―――アスパラガスを栽培しようと思ったきっかけは?

藤原美里さん:もともと米を作っていたけど無理だと思って、その時に何かしないといけないと思った時にアスパラガスを思いついたのがきっかけです。農家はだいたいギャンブルと同じですからね。台風が来ない保証もなく、阿蘇の気温に合っているのかとかもわからず、ほぼ勘を信じて始めました。ただ、ハウスの中で作るアスパラであれば、米ほど自然の影響を受けなくて済むかなとも思いました。

―――南阿蘇村ではアスパラガス農家を始めたのは藤原さんが最初ですか?

藤原さん:そうですね。南阿蘇村では、うちと同時に7軒が同時にアスパラガスの栽培を始めました。

―――まだハウスや設備も整っていない中で新規にアスパラガスの栽培を始めるのには、勇気がいりませんでしたか?

藤原さん:そうですね。でも別の地域では10年前から栽培を始めていて、経験のある親方がいて色々教えてくれたので、失敗はしないと思っていました。
そして、他の野菜の農家は、それぞれで自分の隠し技みたいなものを持っていて情報交換をしないんですけど、アスパラガスを栽培している農家は少なく何もかもが始まったばかりなのでみんなで積極的に情報交換をしているんですよ。

―――南阿蘇村のアスパラガスの強みは何ですか?

藤原さん:南阿蘇村の農家が出荷する4月は全国的にライバルがいないということでしょうか。気候の問題で阿蘇が出荷する時期には露地栽培をしている他県の農家の出荷が間に合わないんです。
アスパラの春のピークは5月から6月です。気温が20℃に上がると発芽するので、ハウスで栽培すると3月から4月に出荷ができるんですね。競争率が低いほど単価が上がるから、よそが出せない早い月に売れるんです。

ちなみに栽培に必要な水も阿蘇には水源がたくさんあって、源流の近くでミネラルも多いから栽培に適していると言えますね。

(夏のアスパラガス)

―――一番大変なことは何ですか?

藤原さん:一番大変なのは、やっぱり毎日休みなく収穫をしなければならないことですかね。子育てをしながら出荷が終わるまで一日中休みなくやらないといけないんです。
春は1日に2回も収穫をするんですよ。調子がいい時は一日10㎝伸びるんですよね。なので、100グラムを一束にして年間で12トンとれるんですよ。

(アスパラガスを収穫する藤原さん)

―――アスパラガスの春と夏に収穫したもので違いはありますか?

藤原さん:成分的には、夏のほうが栄養は多いと感じますね。春は、根っこの養分だけで芽が出てくるので、春はアスパラの上の方の緑の葉っぱの部分がありません。つまり、光合成しない状態で根っこの糖分だけで春アスパラは成長するんです。
それが夏になると緑の葉っぱが増えてこれが光合成して根っこに養分がいき、光合成するおかげで栄養が多いのかなという気がしますね。 

(アスパラガスの雄と雌について説明する様子)

―――農業のやりがいは何ですか?

藤原さん:そうですね。素直にお金、つまり売り上げですね。サラリーマンの方が給料日を楽しみにするのと同じです。

―――アスパラガスの生産者として消費者の反応は気になりますか?

藤原さん:やっぱり私の顔で送ったものの評価は気になります。もちろんすべてのアスパラは商品として大事にしてるつもりではあるんですが、顔が見えるっていうのは、買う人だけでなく、我々の売る側も責任をより強く感じますし、お客様からの反応も非常に気になります。

さて、これからの地域の農業は、どうなっていくのでしょうか?
今回のテーマである世界農業遺産に認定されて農業に変化があったのかどうかを伺ってみました。

インタビューの様子

―――阿蘇地域が世界農業遺産に認定されて、なにか変化はありますか?

藤原さん:世界農業遺産を取ったからと言って、正直変わったことは無いですね。でも世界農業遺産は、これまでの阿蘇での農業の取り組みを認められた結果だと思うと、変わってもおかしくないかなとは思いますね。

―――高齢化がどんどん進んで、担い手が少なくなっていくのを心配されている農家さんも多いと思いますが、どう考えますか?

藤原さん:現在、農業者の平均年齢は70歳で、30年後には崩壊しているといわれています。そんな中で、若手がいないためにかつては先輩たちが40代でやっていたことを中堅世代の私たちがまだやっているという現状です。ですからそこに若い農家の席がないですよね。そして出番もないんです。
だから私たちは、引き際も大切だと思っています。次世代に継承していくためには上の世代が良いタイミングで引くことも大切なんですよね。

―――藤原さんが今後やりたいと思っていることは、何ですか?

藤原さん:今後は、地域の拠点づくりをしたいと思っています。観光客が来たり、地元の人が気楽に集まったり、年をとっていく自分のためにも生活できる施設として地域コミュニティーが欲しいと考えています。観光客には、おにぎりとか出せる小さなカフェのようなものもあって、地域のよろず引き受け業みたいな存在になったらいいと考えています。

ハウスでアスパラの収穫作業を見学したあと、アスパラの収穫に使うトレーをスポンジで丁寧に水洗いする作業を1時間程度体験させていただきました。

お手伝い作業の様子

地元の中学生も農業体験で行う簡単な作業なのですが、トレー数が多く、普段は少ない人数で行っていると考えると大変な作業だと感じました。作業が終わった後は、藤原さんからも大変助かったと言っていただき嬉しかったです

インタビュー終了後、ハウスで収穫したばかりの新鮮なアスパラガスをシンプルに塩ゆでしたものと、アスパラベーコンを食べさせていただきました。シャキシャキしていてとてもおいしかったです。

普段、自分で購入して食べることが少なかったのですが、これからは頂いた食材だけでなく様々な調理方法で南阿蘇のアスパラガスを味わっていきたいです。

藤原さんの農場で収穫されたアスパラガスは、JA阿蘇を通してさまざまな市場などで購入できます。南阿蘇のアスパラガスを見つけてぜひご賞味ください。一度食べたら絶対にはまります!

おわりに

今回、初めて農家の方に取材をするという貴重な体験をしました。
取材をしていく中で、藤原さんの農業にかける思いや、地域の未来のことについて考えていらっしゃることを知り、藤原さんの地域や農家を思う気持ちが人一倍強いことがよくわかりました。

毎日の食卓で食べる阿蘇の食材も、実はこういう方の日々の努力の上に味わうことができるのだと改めて感じ、農業の現場を知る大切さをぜひ皆さんにも知ってもらいたいと思いました。

東海大学エコツーリズム研究会 1年
勝目涼太 記