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【世界農業遺産 阿蘇】有機農業や環境保全型農業を実践している南小国町の梅木正一さんにインタビュー

「世界農業遺産 阿蘇」認定10周年を迎えて

阿蘇地域の草原は、1000年以上前から野焼きや放牧などの農業により維持されてきました。
草原とともに歩んできた阿蘇は、多様な農業や希少な動植物、伝統的な農耕文化などに恵まれており、これらが世界的に価値あるものとして2013年5月に世界農業遺産に認定され、今年で10周年を迎えます。

(東海大学エコツーリズム研究会 取材時撮影)

東海大学エコツーリズム研究会では、地域の宝である資源を保全しながら活用するしくみ「エコツーリズム」を学ぶ研究活動を行っています。

世界農業遺産認定10周年を迎え、エコツーリズム研究会の学生たちが、阿蘇地域の宝である農業や文化、歴史をより深く知るべく、阿蘇の農業を支える当事者の皆さんを訪ねインタビューを行いました。

突然ですが、「有機農業」、「環境保全型農業」について知っていますか?
有機農業とは、簡単に言うと、化学農薬を使用しない農業のこと。
環境保全型農業とは、自然環境を大切にする農業のあり方を指します。
この2つは、「世界農業遺産 阿蘇」を支えているものです。

今回は、そんな自然環境に優しい農業を実践している南小国町の梅木正一さんにお話を伺いました。

梅木正一(うめき しょういち)さん
阿蘇郡南小国町在住。昭和60年代に観光農園を始め、平成2年に完全に有機農業にシフトし、「あっぷるみんとハーブ農園」を開園。また、自然食レストラン「風のもり」も経営しており、現在は奥さんと数名のスタッフで農園とレストランを切り盛りしている。

【環境に優しい農業をする理由とは】

(レストラン風のもりの入口)

まず最初に梅木さんご夫婦が切り盛りしているレストラン「風のもり」についてお話を伺いました。

(風のもりの店内)

―――レストラン「風のもり」を始めたきっかけを教えてください!

梅木正一さん:以前は観光農園を経営していた。2005年頃は、農園を訪れる観光客にリース作りを教えていたり、ジャムを作って販売していた。そこから、せっかくだからレストランを思い切ってやってみようとなったのがきっかけ。

―――農業と観光業との両立の工夫はありますか?

梅木さん:農業は僕、レストランは妻というように分担している。2人とも頑張らないと難しい。1人で両立は難しいかな。6次産業といわれるものだが、生産や加工、販売のどれか一つが欠けると大変になってしまう。今からは、ある程度作業を絞ってやっていこうと思っている。レストランをやっていて良かったことは、自分たちが作ったものをレストランで実際に食べてもらって、味を分かってもらうこと。  

梅木さんは、笑顔で楽しそうに話してくださいましたが、台風の被害で立て直すのが大変だったなど、これまでの苦労も話してくれました。

農業について教えていただいています

―――有機農業を始めたきっかけ、こだわる理由を教えてください!

梅木さん:観光農園を始めたときに、消費者や都会の方から、「有機農業とか、健康にいいものに興味をもっている」という話を聞いて、これからは、無農薬の方が売れるのではないかなーと思ったのがきっかけ。この頃はバブルがはじけた時代だったから、物事の本質や価値について考える人が増えたことで、自然に優しい農業を続けていくことで付加価値を付けていこうと考えた。

有機農業にこだわる理由は、最初は人に興味を持ってもらえるとか、他の商品より高く売れるとか考えていた(笑)。だけど今は、農作物を受け取るおばあちゃんが「ありがとう」と手を合わせてくれることが一番の励みかな。お金のことを考えて買うのではなく、品物の価値を分かって買ってくれる人がいる。これは簡単にやめられないな、続けていくしかないと思えた。

有機農業で大切なことは、「草原の草を堆肥に利用するというように、何事も循環させていくこと」なのだそう。一方で、「有機農業は化学農薬を使わないので、コストがあまりかからないと思われがち。タダのようだけどタダじゃない。」と真剣なまなざしで教えてくれました。

最後に世界農業遺産についてお話を伺いました。

お話しされる梅木さん

―――阿蘇の世界農業遺産の認定による変化はありましたか?

梅木さん:農業遺産の登録は、僕に対して強いインパクトはあまりなかった。でも世界農業遺産に登録されたことで、今までやってきたことが認められたと感じることが出来た。また、このような暮らしが良いものだと認めることが出来た。若い人たちや観光に来てくれた人たちから、阿蘇は魅力があると逆に教えてもらった。

田舎に住んでいると、こんな田舎のどこがいいんだと思ってしまう。私自身もそう思っていた。だけど、観光にきた人から「綺麗なとこでいいね」とか、「空気が澄んでいていいね」と言ってもらえて、阿蘇に対して自信を持てたこと。観光客の目線から、地域の良さを知ることが出来た。

―――世界農業遺産である阿蘇の価値を後世に伝えていくには?

梅木さん:ちょっとでも変化していっていいと思う。野焼きに関しては、高齢者が多く作業も大変。かといって大変な作業を若い人たちに、続けてやってというのも難しい。何がなんでも草原を守っていかないと、と思っても牛がいなくなったり、飼育できなくなったりすれば意味がない。

人間中心の考え方だといけないと思うけど、農業遺産として、この景観を守っていくには、これまでの農業がこれからも続いていかないといけない。だから農業がやりやすい環境作りが必要になってくることかな。

(梅木さんの農場)

梅木さん:阿蘇のこれからは、観光だけでなく、自然を守っていく方向にシフトするのもいいかもしれない。阿蘇の牧野は観光以外にも、牛馬の飼料や野草を堆肥用にするなど、本来の役割がある。阿蘇の景観を守るには、牧野を大切にすることが大事。

そのために僕は、観光と野焼きの両方を行うのではなく、野焼きのプロ集団を作ることや、観光業だけを行う人みたいに役割を分ける手段があっても良いと思っている。そうすることで、野焼きの人たちは野焼きに、観光業の人達は観光業に集中できると思う。

私は、世界農業遺産に阿蘇地域が認定されて観光客が多くなるだろうと、勝手に観光のことばかり考えていました。
しかし、これからの阿蘇は、観光資源としての景観や自然を守るべきであり、これまで続いてきた農業をしっかりと続けていく必要があるという、梅木さんの農家としての熱い思いが伝わってきました。

おわりに

今回の取材の中で、特に印象に残ったのは「阿蘇の自然や牧野の景観を残していかないと」という言葉です。この阿蘇の景観の美しさは、梅木さんのような人が、大変な野焼きなどの作業をしてきたから守ってこれたものだと改めて気づきました。
また、梅木さんは、「牧野を一部広葉樹林にして牧野のために、水を蓄えさせるのもいいのかもれない」とも語ってくれました。

(学生取材スタッフと梅木さん)

野焼きなどの後継者が減少している今、かつてのような形で草原を守っていくことは困難かもしれません。私たちにできることは少ないかもしれませんが、阿蘇のことに少しでも興味・関心を持つことが大事だと感じました。

風のもりのテラス

今回紹介したレストラン「風のもり」。実際に訪れてみると、雰囲気がとても良く、ベランダに出るとあたり一面に広がる自然の美しい景色を堪能できます。
また、手作りのハーブティーも味わうことができ、ランチセットがおすすめです!
南小国町に来たら、ぜひ一度立ち寄ってみてください!

自然食レストラン風のもりは、世界農業遺産 阿蘇のグルメフェアにも参画しています!

グルメフェアの詳細についてはこちら
https://minamioguni.jp/archives/246991

あっぷるみんとハーブ園・自然食レストラン風のもり
【住所】 熊本県阿蘇郡南小国町満願寺312
【電話番号】0967-42-1553

東海大学エコツーリズム研究会 1年
辻田龍太朗 記