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【世界農業遺産 阿蘇】草原は宝物!長年、阿蘇の草原を守ってきた市原啓吉さんにインタビュー!

「世界農業遺産 阿蘇」認定10周年を迎えて

阿蘇地域の草原は、1000年以上前から野焼きや放牧などの農業により維持されてきました。
草原とともに歩んできた阿蘇は、多様な農業や希少な動植物、伝統的な農耕文化などに恵まれており、これらが世界的に価値あるものとして2013年5月に世界農業遺産に認定され、今年で10周年を迎えます。

(東海大学エコツーリズム研究会 取材時撮影)

東海大学エコツーリズム研究会では、地域の宝である資源を保全しながら活用するしくみ「エコツーリズム」を学ぶ研究活動を行っています。

世界農業遺産認定10周年を迎え、エコツーリズム研究会の学生たちが、阿蘇地域の宝である農業や文化、歴史をより深く知るべく、阿蘇の農業を支える当事者の皆さんを訪ねインタビューを行いました。

【阿蘇といえば?】

みなさんは、阿蘇といえば何を思い浮かべますか?
私の阿蘇のイメージはずばり、一帯に広がっている大草原です!
みなさんのイメージも同じなのではないでしょうか?
上には青い空と正面には緑色の草原、そして心地よい風に感動しますよね!

今回は、阿蘇で野焼きや放牧、草原を活用した循環型の農業を実践し、阿蘇の草原の維持に携わっている市原啓吉さんを取材させていただきました!市原さんは、子どもたちに草原の価値を伝える教育活動なども行っており、阿蘇の価値を知る第一人者です。

(市原啓吉さん)

【草原を受け継いでいく必要性とは?】

大学の授業などで、阿蘇の大自然は何千年も前から存在するものであり、そこにある歴史や文化は代々地域の方によって受け継がれてきていると学んでいました。しかし、私は何のために自然や文化を守っているのかを知りませんでした。
そこで市原さんに率直に疑問をぶつけました。

―――なぜ長年草原の維持をしてきたのか、阿蘇の自然にはどのような価値がありますか?

市原さん:草原を維持することは本当に大変な作業だよ。毎年春に実施している野焼きは多くの人数が必要で、枯れた草原に火を入れる作業は危険で過酷な作業だよ。でも、それを続けないと新しい草は生えてこない。草原を放っておけば、いずれ森になってしまうから。

牛や馬を飼ってきた私たち農家にとっては、草原は大事な肥育の場所。牛や馬の冬場の飼料を確保するためにも草原の草を手で刈り、干して草小積みというカヤの山を作って保存し、それを冬の飼料として使うんだ。一年を通じて草原を維持管理する作業を我々農家がずっと続けてきたことで、目の前に広がる緑豊かな草原の景観が保たれているんだよ。

また、市原さんは草原の維持についての現在の課題を教えてくれました。

市原さん:このような農業が何世代もわたって受け継がれていることが、阿蘇地域が世界農業遺産として評価されている要因。また、阿蘇に来る観光客は昔からのやり方で維持されてきた美しい草原を見に来ている。でも、今では人の手で行っていた草小積みは機械で行うようになったし、高齢化で放牧している農家が少なくなった。産業の変化や後継者不足で、昔のやり方では草原の維持ができなくなってきたところも多い。

でも、この伝統的な農業そのものは地域の大事な文化であり、次世代に継承すべき大事な宝だと私は思っている。だから私はあえて伝統である草小積みや野焼きの活動を続けて、若い世代の人たちにも草原の維持の大変さを実感してもらい、草原の価値を知ってもらいたいと思っているんだ。

【草小積み体験に挑戦!】

市原さんが毎年この時期に行っている草小積みの技術を教えてもらい、自分たちで草小積みを作るという体験をさせていただきました。

(カヤをまとめる作業)

まず、草原のカヤを手で刈り、しばらく天日に干して乾かします。乾かしたカヤをある程度の束にする作業からスタートしました。

草小積みの束は、草をうまくまとめるために鍬や体を使うことが大事であると教わりました。しかし、この作業がなかなかできず、大変苦労しました。

(まとめたカヤを積んでいく)

これを円形に積み、屋根の代わりとなる草を敷いて完成です。

ようやく一つ完成したと思ったら、この小積みが合計40セット必要と言われました。草原一帯に作ると考えるだけで気が遠くなる思いでした。

(完成した草小積み)

6人で作業を行い、約40分かけて完成させました。長い時間をかけた草小積み体験ですが、私は阿蘇の大自然と実際に触れ合っているような感覚がしてとても楽しかったです!

市原さんは草小積みの活動を、いつも奥さまと二人で行っているそうです。私は初めて、阿蘇の農家さんが抱える草原の維持の大変な労力について身をもって知りました。

―――草原の維持や農業を続けていくうえで、阿蘇が現在抱える問題は何ですか?

市原さん:やっぱり後継者がいないことだね。自分たちが農業や草原の保全活動をいくら続けても後継者がいないと続かないからね。長い年月をかけて守り続けてきた草原を簡単に見捨てたくはないけど、見捨てなくてはいけない状況にあるところもあるよね。

歴史ある阿蘇の景観を守り続けたいけれど、人材が減っていることに加え、育成する機会が昔に比べ少なくなっていることも事実です。年間を通して労力が必要な草原の保全活動を続けていく難しさを感じました。

【草原維持のために私たちにできること】

―――私たちのような“一般の観光客”には何ができるのでしょうか

市原さん:阿蘇ならではの自然環境を体感するツアーなどがある。観光客には、その体験を通して草原の良い点、また野焼きなどの危険な点を実感してほしい。そして、それをSNSや口コミなどで他の人に広めてほしい。

観光で阿蘇に来てくれることは、地元の自分たちにとっても、とてもうれしいこと。でも自分たちにお金が落ちる仕組みを作らないと、観光資源である草原の維持などが自分たちの大きな負担になるだけ。その負担は住民たちが経済的に破綻してしまう要因の一つになりえるよね。

だから阿蘇の牧野に入るには、保全料1人100円といった、観光と地元住民との結びつきを強くして、お互いがハッピーになり共に発展していけるような経済的支援の仕組みがあればすごくいいね。

阿蘇について知り、友達に話す、たったこれだけでもいい。
活動を通して楽しみながらコミュニティを広げていき、阿蘇に対して理解が深めてほしいとおっしゃっていました。
また、経済的な支援という視点から、観光に訪れた私たちの小さな力が草原の維持のための支えになりうると学びました。

―――後継者不足などの課題解決に向けて市原さんはどのような働きかけをしていますか?

市原さん:草刈りの終わった放牧牛のいないところを自転車で走るプログラムを企画したり、子どもたちには乗馬体験をさせたりした。草原を使ったアクティビティなどを通じて「草原の何が宝物なのか」を自ら気づかせる体験を提供しているよ。

草小積みの体験では、阿蘇の自然と触れ合っている感覚がとても楽しく感じた一方、活動を通じて草原の維持の大変さを身をもって知ることができました。

市原さんは「草原の魅力と価値を理解させ、草原が地域の宝であることに自ら気づかせる」ということを体験を通して、学生や子どもたちに伝えているのだと教えてくれました。

【阿蘇の草原を保全するために私たちにもできること】

私たちが手軽に草原の保全に寄与できる活動について、市原さんが教えてくれました。

それが、市原さんたちが始めた「阿蘇草原再生シール」、通称「シールの会」の活動です。

2023年10月1日、熊本市中央区上通町のびぷれす広場で、「九州世界農業遺産フェア」が行われました。

(九州世界農業遺産フェアの様子)

私たち学生も販売のお手伝いに行きました!

上の写真で貼られているものが「阿蘇草原再生シール」です。

シールが貼られている野菜は、阿蘇の草原の野草を堆肥として利用し、栽培されています。この野菜を購入してもらうことで、阿蘇の草原維持と農家さんに対して利益が還元されます。
つまり、消費者が間接的に阿蘇の草原の維持に協力することにつながる仕組みです!
シールの会について詳しくはこちら:https://www.aso-sougen.com/act/farmers/

おいしい野菜を購入して、阿蘇の草原が守られるなんて素敵な取組みだと思いませんか?
市原さんたちのグループは、このシールを用いて世界農業遺産に認定された阿蘇の価値をPRしています。

これらの野菜は、阿蘇地域の道の駅や直売所などで販売されています!
ぜひ野菜の購入を通じて草原再生への協力をお願いします! 

【おわりに】 

市原さんは、伝統的な草原の維持の活動や農業を続け、草原を使ったアクティビティや草原再生シールなどを用いて、世の中に草原の魅力や価値を知ってもらおうと取り組んでおられました。
こうした取り組みを通して、一般の人が阿蘇の草原保全に興味を持ち、将来の行動変容を起こすことを望んでいるのだと感じました。

また、阿蘇の価値を知った私たちにできることは、あか牛を食べることや、草原再生シールのついた野菜を買うことではないでしょうか。
阿蘇の自然を守っていくために、小さなことから始めていきたいと思います!

東海大学エコツーリズム研究会 
2年 平川雅士 記